医療機器の試作にあたっては、東京大学が基本図面を提供し、日立の研究者と開発者との議論の上で、臨床モデルの設計を合同で進めました。
先に紹介した手元スイッチも日立製作所が手に馴染みやすい形に製作し、2002年6月に厚生労働省の認可を受けるまでになりました。
日立製作所がナビット(Naviot)と商標登録し、当初考えていた腹部だけでなく産婦人科領域や胸部外科領域にも応用できたため国内でも使用されていたのですが、ビジネスそのものは頓挫しています。
つぎに失敗の原因を振り返ってみたいと思います。
一つ目は、医師の技術の省力化だけでは、市場価値が限られていたということです。
「不可能な治療システムへの新技術」といったニーズを医療現場に提供できていなかったという反省があります。
手術ロボットとして成功したda Vinciという内視鏡手術を支援するロボットでも、当初は同様の問題があったそうです。
これを単なる腹腔鏡下手術に応用するだけでは、外科医による手術に対する優位性がその導入コストに対して明確にならず、最初はビジネスとして成り立たなかったと聞いています。
しかし狭い空間の中で糸を掛けて縫合できるというこのロボット技術の特性が、前立腺の内視鏡下手術で有効だったことが分かり、低侵襲の内視鏡下手術が安全に行えるようになりました。
外科医による通常の手術に比べ、入院期間の短縮という医療経済的なメリットも生まれました。
1台3億円もする非常に高価な手術ロボットの導入コストに見合った利点が病院に対して明確になり、急速に普及が進みました。
私たちが実用化した内視鏡マニピュレータにはそれだけの経済的価値が見出せなかったという点があると思われます。
高鳥孝貴